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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)6639号 判決

原告 中沢丑五郎 外二名

被告 文京更生商業協同組合 外九名

主文

一、被告文京更生商業協同組合の昭和二六年四月一九日の臨時組合員総会における「組合員原告中沢英一こと中沢丑五郎を除名する」旨の決議は存在しないことを確認する。

二、被告文京更生商業協同組合の、同年五月二日の臨時組合員総会における「組合員原告高橋鉄之助及び同富田秀夫を除名する」旨の決議を取り消す。

原告等のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は五分してその二を原告等の負担とし、その余を被告文京更生商業協同組合の負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

「一、被告文京更生商業協同組合の

(1)昭和二六年四月一九日の臨時組合員総会における『組合員原告中沢英一こと中沢丑五郎を除名する。』旨の決議

(2)同年五月二日の臨時組合員総会における『組合員原告高橋鉄之助及び同富田秀夫を除名する。』旨の決議

はいずれも存在しないことを確認する。

二、仮に右決議が存在する場合においては、これを取り消す。

三、被告鱸正蔵、同根本義五郎、同ト・トンボ、同春日国弘、同清水わか子、同福島木八、及び同山岸完治は被告組合の理事でないこと、並びに被告川津大吉郎及び同中本謹一は被告組合の監事でないことを確認する。

四、訴訟費用は被告等の負担とする。」

旨の判決を求める。

第二、請求の原因

一、被告組合は、東京都文京区内の露店商により結成されている中小企業等協同組合法(以下法という)に基く事業協同組合であり、原告等はいずれもその組合員で、特に原告中沢は元理事長、同高橋及び富田は元理事の地位にあつた。

(一)  被告組合は、昭和二六年四月一九日、監事目黒兼吉、同平岡留雄の招集により、文京区根津須賀町金光教本郷教会で、臨時組合員総会を開催し、「組合員中沢英一を除名する。」旨の決議をした。

(二)  しかしながら、当時における被告組合の理事長は原告中沢であり、同人が組合員総会の招集権者であつた。それ故、監事である目黒、平岡が何等の権限なく招集した右総会は法律上有効な総会とはいえず、したがつて、そこでなされた決議も法律上存在しない。

(三)  仮に、この総会が法律上存在し、決議も法律上有効であるとしても、その決議は左記のような瑕疵があるから取り消さるべきである。

(イ) 被告組合の総会の招集通知は、法第四九条、定款第三二条に基き、会日の一〇日前に、会議の目的たる事項、内容、日時、場所を記載した書面を組合員に発しなければならないのに、この総会については、このような手続をとらないばかりか、原告中沢には全然通知をしていない。

(ロ) 除名決議をするには、一般組合員に対する招集通知の外、法第一九条第二項に基き、会日の十日前までにその組合員に対し、除名の決議をする旨通知し、且つ総会で弁明する機会を与えねばならないのに、原告中沢に対しては、このような手続をとらなかつた。

(ハ) 仮に、何らかの形で右の各通知があつたとしても、その通知は同年四月一七日になされた。たとえ、被告の主張するとおり、発送の日が四月九日であつたにせよ、いずれにしても一九日の総会までには前記一〇日の期間を存しないのである。

(ニ) 法第五二条第三項によれば、総会において、議長は組合員として議決に加わる権利を有しないと規定されているのに、この総会では、議長田中両一が議決権を行使した。

二、(一) 被告組合は、昭和二六年五月二日、副理事長被告鱸正蔵の招集により、前記金光教本郷教会で、臨時組合員総会を開催し、「組合員原告高橋鉄之助及び同富田秀夫を除名する。」旨の決議をした。

(二) しかしながら前記のとおり、昭和二六年四月一九日の総会における原告中沢を除名する決議が法律上存在しないか、あるいは取り消さるべきものである以上、中沢が引きつづき理事長の地位にあり、したがつて総会の招集権者であつた訳である。しかるに同年五月二日の総会は、副理事長鱸において、代表理事たる理事長中沢が先の総会で除名され理事長の資格を失つたとの理由で、定款第二五条第二項に基き副理事長の資格をもつて、代表理事の職務を代行するとして、招集したものであるから、招集権の無い者が招集したことになり、法律上有効な総会ということはできず、そこでなされた決議もまた法律上存在しないことになる。

(三) 仮に、この総会が有効であつて、そこでなされた決議も法律上有効であるとしても、その決議は左記のような瑕疵があるから取り消さるべきである。

(イ)  この総会の招集につき、理事会の決議を経ていない。

(ロ)  この総会についても、前記定款第三二条に基く招集手続をとつていない。

(ハ)  また、前記法第一九条第二項に基く被除名者に対し弁明の機会を与える手続をとつていない。

(ニ)  仮に何らかの形で右(ロ)(ハ)の手続がなされたとしても、それは会日の前日である五月二日に発送されたものであつて、法第四九条、定款第三二条又は法第一九条第二項に各定められた一〇日間の期間を存しない。

(ホ)  法第五二条第三項によれば、総会において議長は決議に加わる権利を有しない。すなわち、議長は、公平無私に議事を運営するために、自己の議決権も代理人としての議決権も、いやしくも組合員としての議決権は行使することを禁止されている。しかるに、この総会では、議長田中両一が自己及び組合員小平源作の代理人としての議決権を行使している。その結果、決議事項の成否に重大な影響を与えていることはつぎに述べるとおりである。

除名決議の議決権の内容は、出席組合員総数六七名のうち、賛成者四五名、反対者二二名(その内訳、除名の必要なく警告で足りるとする者一三名、白紙七名、棄権二名)となつており、その賛成者数には、議長田中が違法に行使した二票(その一は田中自身のものであり、他の一は組合員小平源作の代理人としてのものである)が含まれていると解せざるを得ない。けだし、被告組合においてはその後昭和二十六年八月十三日、原告等に非違ありとし、これを糾弾する趣旨の声明書を作成しているが、田中はこれに賛成者としてその名を連ねている位であるからである。而して、出席者中には議決権のないものを含まないことは当然であるところ、前記二票が無効であるから、この分を控除すると出席者は六五名、除名賛成者四三名、反対者二二名となり、法第五三条の要求する、出席組合員のうち議決権を行使し得る者の総数の三分の二以上の賛成を得られなかつたことに帰するのである。

三、(一) 被告組合は、昭和二九年二月二七日、理事長被告鱸正蔵の招集により、東京都台東区池端七軒町六二番地休昌院で、臨時組合員総会を開催し、役員の改選を行い、被告鱸正蔵、同根本義五郎、同ト・トンボ、同春日国弘、同清水わか子、同福島木八及び同山岸完治を理事に、被告川津大吉郎及び同中本謹一を監事に、それぞれ選任した。

(二) しかしながら、右総会の招集者鱸はつぎに述べるとおり被告組合の理事長ではなく、組合員総会の招集権限を有するものではないから、この総会は法律上有効な総会ということができない。したがつてそこでなされた選挙もまた無効であり、この選挙により選ばれた被告等はいづれも被告組合の理事又は監事ではない。

(1)  これより先、被告組合は、昭和二六年五月二日の総会において、理事監事全員の改選を行い、被告鱸正蔵、訴外田中両一、同宮順一郎、被告ト・トンボ、同根本義五郎、同川津大吉郎及び同福島木八を理事に、訴外鵜川以登及び被告中本謹一を監事に選任し、さらにその後昭和二七年二月一七日、被告鱸正蔵の招集により、前記金光教本郷教会で、臨時組合員総会を開催し、「現役員選任の効力問題に関する対策(無効と認める場合は改選を含む)の件」と称する議題の下に理事監事全員の改選を行い、昭和二六年五月二日の選挙で選ばれた者全員を再選した。

(2)  ところで、事業協同組合の役員の選挙方法については、法第三五条第三項に「役員は、総会において選挙する。」と定められているが、昭和二六年五月二日の総会が適法な総会でないことはすでに述べたとおりなので、同日行われた選挙もまた法第三五条に違反して無効である。

(3)  さらに、右選挙の方法が法及び定款の規定に違反している。

(イ) 法第三五条によれば、理事監事は総会において直接選挙しなければならないのに、この選挙においては、理事七名監事二名の総員九名を一まとめにして総会で選挙し、その後で九名の者が別の会合を開いて、理事七名監事二名を互選し、同時に代表理事である理事長に被告鱸を選んだ。これは、法が役員の選任を総会の専決事項としている趣旨に反して、これを他の機関に委任したものである。

(ロ) 法第三五条第三項をうけている定款第二六条には、「第一項、役員の選挙は連記式無記名投票によつて行う。第二項、有効投票の多数を得た者を当選人とする。但し、理事又は監事の定数をもつて、有効投票の総数を除して得た数の得票数がなければならない。」と規定されている。この選挙における最低得票数は理事については八四票、監事については二九二票となるがその際選挙された理事及び監事はこれに達していない。

(ハ) さらに、この選挙においても議長田中両一が違法に投票権を行使しているのであるが、その結果当落の決定に重大な影響を及ぼしている。役員選挙は定款第二六条により連記投票であるから、二個の議決権の無効は一八票の無効を生ずる。しかるに、当選者の最低得票者であるト・トンボと次点者の後藤芳平の得票差一票よりも無効投票数の方が大きいから、結局、この役員選挙の当選者の決定は不能となる。それ故、この選挙は議長田中の違法な投票により無効といわねばならない。

四、よつて原告等は請求趣旨記載のような判決を求める。

第三、答弁

「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求める。

一、請求の原因一について

(一)  請求の原因一の冒頭の事実、同(一)の事実は認める。

同(二)の事実は否認する。

同(三)の事実のうち、被告組合の定款第三二条に、原告の主張するとおりの規定があること及び議長田中両一がこの総会で議決権を行使したことは認めるが、その他の事実は否認する。

(二)  この総会が監事目黒、平岡によつて招集された理由は、つぎのとおりである。

被告組合では、組合員広瀬光外三〇名(全組合員九三名の五分の一以上)が定款第三三条「組合員は総組合員の五分の一以上の同意を得て、総会の目的及びその招集の事由を記載した書面を理事長に提出して総会の招集を請求することができる」との規定に基いて、同年二月二五日理事長原告中沢に対し、組合員原告中沢及び同高橋に定款第一四条第一ないし第三項に該当する背任行為があることを理由に、両名を除名することを目的とする臨時組合員総会の招集を請求したのに、理事長はこの請求に基く総会を招集しなかつた。ところで定款第三四条には、理事長が右の場合に二週間以内に正当な事由がなく招集手続をしないときは、監事がその総会を招集しなければならない規定があるので、監事両名はこれに基いて、右総会を招集したのである。

(三)  この総会の招集手続及び決議の方法は、つぎに述べるとおり適法である。

(イ) 総会の招集は、同年四月九日回覧板に決議事項を記載し、これを全組合員の回覧に付して、各人から閲覧済の捺印を得る方法により行つた。

(ロ) 組合員を除名する決議に関する法第一九条第二項に定める手続は、四月九日に中沢に対して普通郵便に付して行つた外総会の当日、監事目黒が中沢に口頭で、総会に出席して除名原因について弁明するよう促した。

(ハ) 定款第三二条には「総会の招集は、会日の一〇日前までに」と記載されていて、本件総会の招集通知及び除名決議に関する特別の通知は、前述のとおり四月九日になされている。もつとも、株式会社の株主総会の招集通知については、会日までの期間に関し通知を発した日の翌日から起算するとなす判例もあるが本件の場合には適切でない。

なお原告は、この点につき昭和二六年一〇月三一日の準備手続期日においてはじめて主張したから、法第五四条で準用する商法第二四八条に定める提訴期間経過後の主張であるからこれを理由に前記総会の決議の取消を求めることはできない。

(ニ) 仮に、右各通知と会日との間に十日の期間が存しない為決議の効力に影響あるものと解すべきであるとしても、原告中沢は、総会に出席して議事に加わり、且つ除名原因について弁明することは可能であつたのである。それにもかかわらず同人があえて総会に欠席して自らその権利を放棄した以上、定款第三二条又は法第一九条第二項に基く通知が法定期間に一日足りないことを主張するのは、権利の濫用として許されないところである。

(ホ) 法第五二条は訓示規定であり、議長が議決権を行使しても決議の結果に影響を及さなければ決議の取消事由とはならないと解すべきところ、当日組合員の出席者は五二名、原告中沢の除名の賛成者は四八名であり、議長の行使した分を除いても三分の二に達している。

(四)  総会当時の法第五四条によつて準用される昭和二五年法律第一六七号による改正前の商法(以下旧商法という)第二五一条によると、決議取消の訴の提起があつた場合において、決議の内容、組合の現況その他一切の事情を斟酌して、その取消を不適当と認めるときは、裁判所は請求を棄却することができると規定されている。

ところで被告組合においては、原告等にはいずれも不正行為があつて組合員多数の反感を買い、その臨時組合員総会開催の請求により総会が開かれることとなつた。昭和二六年四月一九日の総会では、総組合員九三名中五二名出席し、そのうち四八名の賛成で組合員原告中沢を除名したのである。従つて、原告等を除く組合員の殆んどすべてが原告中沢の除名に賛成なのであつて、この決議を取り消して、再びこれを新たに総会の議事に付しても同様の結果となることは明らかである。よつて、原告の請求は旧商法第二五一条により、棄却さるべきである。

二、請求の原因二について

(一)  請求の原因二の(一)の事実及び(三)のうち議長田中両一が自己の議決権を行使した事実は認めるが、その余は否認する。

(二)  (イ) 先に同年四月一九日の総会において、理事長原告中沢は組合員として除名されたが、当時の法第三五条第三項によれば、役員は総会において組合員又は組合員たる法人の業務を執行する役員のうちから選挙するとあつたので、原告中沢は理事長の資格を失い、又は少くともその資格に疑問を生ずるに至つた。よつて副理事長被告鱸は定款第二五条第二項「副理事長は理事長を補佐し、理事長に事故があるときはその職務を代行する。」との規定に基き、理事長に事故あるものとしてこれに代つて総会を招集したのである。

(ロ) 仮に、四月一九日の総会の決議が取り消さるべきものであるとしても、その取消前である四月二一日になされた招集通知に基き開催されたこの総会は適法に成立し、そこでなされた決議もまた適法である。

(三)  総会の招集手続及び決議の方法は、つぎに述べるとおり適法である。

(イ) この総会を開催するについては、同年四月一九日、二〇日の両日にわたつて理事会を開き、そこで総会招集の決定をした。

(ロ) 同年四月二一日、全組合員に対して回覧板により総会の日時、場所及び目的事項を通知し、被除名者原告高橋及び同富田に対しては組合員宮順一郎を通じ除名原因に対する弁明を求めた招集状を交付して、総会招集の手続をとつた。

(ハ) この総会に出席した組合員は六七名で、そのうち二名は棄権し、組合員除名の件については、除名賛成者四五名をもつて可決された。もつとも、議長田中両一は組合員小平源作の代理人として議決権を行使したけれども、右は議長として行使したものではないから、法第五二条第三項に違反するものではない。而もこの分を控除しても、なお四四名の賛成者があり、出席者の三分の二以上となるから、議長が議決権を行使しても除名決議の効力には影響がない。

(四)  仮に、右の主張が理由ないとしても、第三の一の(四)で述べたように法第五四条及び旧商法第二五一条により原告の請求は棄却せらるべきものである。

けだし、この総会においては、出席者六七名中除名賛成者四五名、警告一三名、白紙七名、棄権及び帰宅二名で除名を決定したのであるから、もし、この決議を取り消して上改めて総会の議事に付しても同様の結果を生ずることは明らかであるからである。

三、請求の原因三について

(一) 請求の原因三の(一)の事実、(二)の(1) の事実(二)の(3) の(イ)のうち、昭和二六年五月二日の役員改選に際し、理事監事を一括して選挙し当選者の互選によつて理事、監事を決定したこと及び、この選挙において、議長田中が原告の主張するように投票に加わつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  右昭和二六年五月二日の総会が、適法に成立していることは前記(第三の二)のとおりである。

(三)  被告組合の右総会における役員選挙はつぎに述べるとおり適法である。

(イ) この選挙において理事監事の総員九名を一括して選挙し、当選者の互選で理事監事の別を定める方法をとつたのは、総会が、当選者は理事又は監事のいずれになつてもよい趣旨で選挙し、ただその区別だけを当選者の互選に任かせたものである。このような選挙の方法は、総会で直接選挙したものに外ならず、これを他の機関に委任したとはいえない。

(ロ) この選挙で選任された理事の最低法定数は、有効投票六五票を理事の数七名で除した九・二八票余であり、当日選ばれた各理事の得票数は、いずれも最低法定数をこえている。また監事の最低法定数は、有効投票数六五票を監事の数二名で除した三二・五票であり、当日選ばれた鵜川は五四票、中本は四三票でいずれも最低法定数以上を得ているのである。

(ハ) 法第五二条第三項に、議長は組合員として総会の決議に加わる権利を有しない旨規定してあるのは、投票により選挙する場合の投票権の行使まで禁じている趣旨ではないから、議長が組合員として投票するのは一向差支ない。

仮に、議長に投票権がないとしても、小平源作の代理人として投票したのは、議長としての投票ではないから有効であり結局、各人の得票に一票の差を生ずる場合があるに過ぎないところが当選者中の最低得票者ト・トンボ(二九票)と次点者後藤芳平(二七票)との差は二票であるから、議長田中が自ら投票したことは、選挙の結果に影響を及さない。

(四)  以上述べたとおり、被告組合の昭和二六年五月二日開催の臨時組合員総会における役員選挙は適法であつて、その違法を前提とする原告の請求は理由がない。さらに被告組合では原告がこの当選の効力について争つていることにかんがみ、民主的に組合員の総意を聞くために、昭和二七年二月一七日に総会を開き、もし右当選が無効ならば改選をしたい旨提議したところ疑があるならば、一応改選すべき旨の意見が多数あり、結局右当選者は全部辞任したので、改めて選挙した結果同一人が全部再選された。その後右当選者は二年の任期が満了したので、招集権限ある理事長鱸正蔵は、昭和二九年二月二七日臨時組合員総会を開き、被告等が理事又は監事に選任されたのである。故に、被告等は、仮に昭和二六年五月二日の総会における選挙が無効であつても、理事又は監事の資格を有する。

第四、原告の反駁

一、被告が主張(第三の一の(二))するように、広瀬光外三〇名から臨時組合員総会招集の請求があつたことは認める。しかしながら、その総会の目的事項は、建築工事に関して理事者に不正があるから調査することであつた。

そこで、理事長原告中沢はこの請求に基いて昭和二六年三月九日臨時組合員総会を招集したから、さらに監事が右請求に基く総会を招集することはできないのであつて、結局、同年四月一九日の総会は、招集権のない者が招集したこととなる。

仮に、原告中沢が右請求に基く総会を招集しなかつたとしても、この場合監事の招集する総会の目的事項は、請求者等が総会の目的とした点に限られるところ、これには原告中沢を除名する旨の要求は包含されてなかつたにも拘らず、四月一九日の総会にこの議案を提出したものであつてその総会で右の件が決議されても何等効力を生ずる理由はない。

被告の法第五四条の準用する旧商法第二五一条の規定により、取消の訴を棄却すべしとする主張(第二の一及び二の各(四))は、昭和二六年法律第一三八号により新たに附加された法の附則第三号に牴触するものである。すなわち、右附則第三号によれば、特別の定めがあるとき以外は旧法時の事項にも遡及して新法を適用する旨宣言しているからである。

また被告は右第三号の但書を根拠とするようであるが、総会の決議が完全に効力を発生するのは、取消申立期間の経過後で、それまでは取消変更を受ける可能性を有する仮の不完全な決議であるから、但書にいうところの「旧法によつて生じ終つた」ものではない。

なお、この点をさらに根本的に検討するならば、旧商法第二五一条はその文意が明示するごとく、具体的な訴訟における裁判所の権限を規定した、訴訟法的な規定であることは明白である。(旧商法第二四七条ないし第二五三条もすべて同じ)。それ故本条の規定の適用は、その訴訟をなすとき(すなわち裁判をなすとき)を標準として決すべきものであつて、裁判をなすときに本案が失効している以上、これを適用することを得ないことは当然である。この主張の正当であることは、本条の制定施行された昭和一三年法律第七二号(旧商法)の施行法、同年法律第七三号第四一条の明文により明らかである。それには「新法(旧商法)第二四七条ないし第二五三条の規定は訴の原因たる事実が新法施行前に生じた場合にもまた適用する」旨規定され、本条は総会の開催した日時を標準とせず、裁判をなすときを標準として、その適用、不適用を決することを明定しているのである。

つぎに、旧商法第二五一条の規定は削除されても、裁判所は法律解釈の立場又は条理上から、同じ趣旨によつて裁判し得るかの問題が残るけれども、原告はこれを否定的に解したい。右法条や商法第一〇七条は、いわゆる総会荒しの目的に出た訴を抑制するための規定で、株主又は組合員の正当な権利の行使を抑制するためのものではない。この立法趣旨からいうと、本条のごとき広汎な裁量権を裁判所に付与したことはゆき過ぎであつて、総会荒しの抑制には権利濫用の法理をもつて解決すれば足りる。これ改正法が旧商法第二五一条を削除した理由であると解する。

このように解するなら、本件の場合において権利の濫用であるか否かが最後の問題となるわけである。ところで、この場合には、何等定款所定の除名原因がないのにかかわらず(被告等の原告に対する告訴事件は、すべて嫌疑がないことになつた)、秘密裡に理事長又は常務理事であつた原告等を除名した決議の取消を求めることは、正当な権利の行使に外ならない。被告の主張するごとく、多数の賛成者による決議であるから、法及び定款を無視してもよいのならば、法及び定款はその必要をみないのである。組合員の除名は、法の極めて重大視し、厳重なる手続を規定しているところで、しかも、第一九条第二項に違反した理事又は監事は、法第一一五条により一万円以下の過料に処されるのであつて、その手続違反を主張することが権利の濫用となるわけがない。

第五、第四に対する被告の反駁

一、昭和二六年三月九日に行われた総会が、広瀬光等の請求に基くものであることは否認する。

(イ)  仮に、右総会が広瀬光等の請求に基くものであるとしても、この総会においては、中沢からその不正行為について納得のゆく答弁がなかつたため、議場は混乱してその目的を達することができなかつたのである。このような場合には理事長の総会招集は実質的にはなかつたこととなり、監事に総会の招集権があると解すべきである。

(ロ)  仮に、原告中沢が右総会を招集したことにより、前記総会招集の請求に対する任務を果したとみても、総会の席上、出席組合員六六名(全組合員九三名)のうち六〇名の多数の決議をもつて、さらに二週間内に総会を招集することとし、理事長である原告中沢もこれを承認したのにかかわらず、同人は招集しなかつたから、法第四七条、第四八条並びに定款第三三条、第三四条の解釈上監事に総会の招集権がある。

二、法律が遡及しないことは法律解釈上の一大原則であり、本件総会が前記法の附則第三号の施行の昭和二六年七月一日以前のものであるから、改正法の適用を受けないと解すべきである。附則第三号の但書の精神よりみても、改正前の総会の決議について既に提起されている決議取消の訴訟に対する旧商法第二五一条の裁判所の決定権をも奪う趣旨とは解せられない。

第六、立証〈省略〉

理由

一、昭和二六年四月一九日の総会における除名決議の効力

被告組合が東京都文京区内の露店商により結成された中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合であること、原告等がいずれもその組合員で原告中沢は理事長、同高橋及び同富田が理事であつたこと、被告組合が昭和二六年四月一九日東京都文京区根津須賀町金光教本郷教会において監事目黒及び同平岡の招集により臨時組合員総会を開催し、「組合員中沢英一を除名する」旨の決議をしたこと及び当時被告組合の理事長は原告中沢であつたことは当事者間に争がない。

この総会の招集が、被告組合の当時の理事長原告中沢によらないで、監事被告目黒及び同平岡によつて行われているので、監事がその招集権限をもつていたかどうかについて、先ず判断する。

被告組合の組合員広瀬光外三〇名が、同年二月二五日、理事長原告中沢に対して定款第三三条に基き、臨時組合員総会招集の請求をしたことは争がない事実であり、証人関口藤吉及び同小原栄之助の各証言、原告三名の各本人尋問の結果を綜合すると、右請求がなされたのは被告組合の店舗建設工事に関して、原告中沢等組合の理事者に不正行為があつたとの疑惑が組合員間に生じたためで、総会の目的は「建設工事に関する一般的報告を求める。」ことにあり、理事長原告中沢は、この請求に応じて、同年三月九日、金光教本郷教会に右目的事項等を目的とする臨時組合員総会を招集し、この総会において中沢は組合に関する殆んど一切の書類を監事に引き渡してその調査に委ねることになつた事実が認められる。

もつとも、乙第一号証中には、総会招集請求書の総会の目的は「組合員原告中沢等を除名する」ことにある旨記載があるけれども、前記の証拠に照して、同証は当時理事長に提出された請求書と同一のものとは認められないから、反証とするに足らないし、また証人平岡留雄、同船津時治及び同広瀬光の各証言並びに鱸正蔵尋問の結果のうち、前記認定に反する部分は信用できず、他に右認定を動かすだけの証拠はない。

被告等は、この総会においては、議場が混乱して総会の目的を達しなかつたから、実質的には総会の招集がなかつたことになると主張(第五の一の(イ))しているけれど、定款第三四条の場合には、理事長が総会の招集手続をした以上もはや監事はさらに招集することはできないのであり、本件の場合に、理事長が総会を招集していることは前に認定したとおりであるから、この主張は採用できない。

それ故、理事長原告中沢が、組合員広瀬等の総会招集の請求に応じなかつたことを前提として、監事が定款第三三条第三四条に基き、右総会を招集する権限があるとする被告等の主張は理由がない。

さらに、被告等は、この総会の席上、出席組合員の大多数をもつて、改めて総会を招集することを決議し、理事長もこれを承認したのに、総会を招集しなかつた旨主張(第五の一の(ロ))するけれど、仮にそのような事実があつたとしても、定款第三三条、第三四条の要件を充していないこと明かであるから、監事として総会を招集する権限を有しないこと勿論であるので、主張自体理由がない。

結局、この総会は、何等招集権限のない監事によつて招集されたものであつて、これを法律上有効な総会ということはできない。したがつて、そこでなされた組合員原告中沢を除名する旨の決議もまた、法律上存在しないことになる。

二、同年五月二日の総会における除名決議の効力

(一)  この総会の招集が被告組合の当時の副理事長被告鱸によつて行われていることは当事者間に争ないところ、前示のとおり理事長原告中沢を除名する決議が存在しなかつた結果、その招集当時も同人が理事長として、本来総会を招集すべき権限をもつていたのである。もし理事長がその地位を失い後任者が決まつていない場合であるならば、定款第二五条第二項の「理事長に事故ある場合」として副理事長が理事長の職務を代行することは差支えないであろうが、本件においては理事長が依然としてその地位にあつたことになる結果、同人がその職務を執行することは可能であつたから、事故があるとはいえないかにも考えられよう。しかしながら、理事長が、前記のように多数の組合員が出席した総会(正確にいえば総会と称せられた集会にすぎないが)で除名を受け、一応その資格を失つているかのごとき外観を呈しており、しかもその地位の有無は法律的評価にかかりたやすく確定し難い状況であるから、ただ法律上理事長が存在するというだけで(その他一般に予想される理事長の病気、不在などは別として)、副理事長の代行を許さないとすれば、組合の業務執行は久しく不安定となることを免れないであろう。それ故、「理事長に事故ある場合」とは、このような場合にもあてはまると考えるのが相当であり、したがつて、副理事長被告鱸の本件総会の招集は適法であつて、これを原告主張のごとく招集権限のないものの招集した無効な総会ということはできない。

なお、附言するならば、法第四二条により準用される旧商法第二六一条によれば、当時の理事は各自組合を代表する権限を有し、ただ、定款第二五条によりその権限を制限されているにすぎないから、仮に副理事長被告鱸の招集が、定款第二五条第二項に基かないとしても、法律上有効な総会であることには変りがなく、単に決議の取消事由となるにすぎない。

(二)  つぎに、原告がこの決議の取消を求める点について判断することとなるが、それに先き立つて原告富田及び同高橋の当事者適格についてふれなければならない。

法第五四条によつて準用される旧商法第二四七条の規定によれば、決議取消の訴訟を提起できるのは、組合員、理事及び監事に限られている。そこで、右除名決議が存在しない場合であるならその地位は、決議の有無により、というよりは何等法律上有効な除名決議がなかつたのであるから、いささかも影響を蒙る筈もないけれど、一応決議が存在する以上、それが取り消されるまでは有効に存在する結果、右両原告は組合員(同時に理事)としての地位を失つているから、取消訴訟を提起できないのではないかとの疑問を生ずる。しかしながら、本法に基く組合は、法第一条に定めるとおり、その主要目的が構成員の経済的活動の機会を確保し、もつてその自主的な経済的活動を促進し、且つその経済的地位の向上を図ることにあつて、法第三条第一項は組合を法人とすると規定しているがその組合と組合員との内部関係は、会社においては見られぬほど密接であり、組合員の組合に対する発言権も強くてしかるべきである。それ故組合員の除名というごとき組合の構成者の死命に関する問題を会社の取締役の解任決議と同一に扱うことはできない。同じ会社といつても、人的会社といわれる合名会社においては、社員の除名は極めて厳重な手続を経なければできないのである。そこで、この場合においては、商法第二四七条の準用を受けながらも、訴の提起権者の点については、その性質の相違から若干の変容を免れない。すなわち、本組合における組合員除名決議の効力を争うについては、民法上の社団法人における場合と同様、除名をされた組合員も訴を提起し得ると解すべきであろう。

(三)  そこで進んで取消原因の有無について検討することとし、先ず招集通知の点をとり上げてみる。

証人三竹まさの証言及び前記鱸の供述により真正に成立したものと認められる乙第四号証の一ないし四の記載並びに証人宮順一郎、同根本義五郎、同川津大吉郎、同船津時治及び同田中両一の各証言によれば、この総会の招集通知は被告等主張のように会議の目的事項及びその内容並びに日時、場所を記載した回覧板を組合員の回覧に付して閲覧済の捺印を求める方法によつて行われたことが認められる。

しかるに総会の招集手続の具体的方法を定めている定款第三二条は、「会日の一〇日前に、会議の目的たる事項、及びその内容並びに日時及び場所を記載した書面を各組合員に発してする」ことを規定している。回覧板で回覧に付するときは、たとえ各組合員が在宅しても、各人に書面を発送した場合と異つて詳細且つ正確にその記載内容を了解し、又は検討を加えることは困難であり、到底これを各人に書面を送つたのと同一視することはできない。それ故、この場合適法な通知を欠いているとしなければならない。そればかりでなく、被告等は右回覧は会日の一〇日前の四月二一日発しられていると主張するけれど、右に上げた各証人及び本人の供述中この点に関する部分はいづれも信用し難く、他にもこれを肯認せしめるだけの証拠はないし、証人菅谷主計、同横山きよ及び五十嵐力次の各証言によれば、少くとも坂下地区の組合員に対しては会日の僅か一、二日前になされたことが認められるのである。

してみれば、この招集手続は、定款第三二条に違反し、そこでなされた除名決議は取消を免れないことになるわけである。

(四)  被告等はこの決議取消の訴は旧商法第二五一条によつて棄却さるべきであると主張(第三の三の(四))するけれども、右法条は、決議の取消事由があつても、判決当時において決議の内容、会社の現況その他一切の事情を斟酌すると、決議を取り決すのが不当であると思われるときには訴を棄却し得る規定であり、その適用の標準となつているのは裁判時である。そうして、右法条はすでに昭和二五年法律第一六七号により削除されたのであるから、これを適用する由もない。

もつとも、右のごとき明文はなくなつても、裁判所が合理的範囲において裁量権を行使することは許されるのであつて、瑕疵の程度を考慮し、決議を取り消しても利益がないと認められる場合には訴を棄却すべきであろう。ところで本件においてはその招集手続の違法は前示のとおりきわめて著しく、組合の意思を決定する総会の手続について慎重を期した定款の規定を全く無視しており、除名決議に際しての状況が仮に被告等の主張(第三の三の(四))するとおりであつたとしても、法定数とすれすれの線であるから、右違法が決議の結果に影響しないと断じ得ない。しかもその取消の対象たる決議は組合員の除名という極めて重大なものである。このような点からみても、決議を取り消す利益は十分に存在するから、この点に関する被告等の主張は理由がない。

三、被告九名の役員としての地位の存否

原告等は、被告組合の昭和二九年二月二九日の臨時組合員総会における選挙によつて選ばれた、被告組合を除いた被告九名の理事又は監事としての地位を否定するが、その理由の根元となつているのは、昭和二六年五月二日の臨時組合員総会における選挙の無効であるから、この点から検討しなければならない。

(一) ところで、原告等が右選挙の無効を主張する第一の点は、法第三五条第二項により役員の選挙は総会で行わねばならないのに、この選挙を行つた総会は適法な総会ではないという(第三の(二)の(2) )ことである。しかしながら、これについては前示のとおり右総会はその招集手続に瑕疵があり、そこでなされた決議は取消を免れないものではあつたが、それが法律上総会であることには何の影響もない。このような総会は、総会と称しながら、法律上有効な総会といえないものとは全然異なることはいうまでもない。それ故右選挙が総会で行われなかつたとする主張は失当である。

(二)  つぎに選挙自体の違法原因について判断する。

(イ)  この選挙が原告等の主張するように、理事の定数七名及び監事の定数二名を区別して選挙せず、一括して九名を選挙し、その互選により理事及び監事を決定するという方法で行われたことは争がないけれど、成立に争のない乙第一八号証の記載によれば、選挙をこのような方法で行うことについて格別の異議の出ていないばかりでなく、当選者九名で理事(理事長、常任理事、平理事)及び監事を互選し、鱸理事長が就任挨拶をして総会の議事を終了していることが認められる。してみれば、出席組合員は、当選者は理事又は監事のいずれになつてもよいとの趣旨で選挙したのであるから、当選者が理事監事の別を定めても、選挙によりあらわれた組合員の意思に反したものでもなく、あえてこれをもつて無効とするには足りない。

(ロ)  この選挙の投票の結果をみると、右乙第一八号証の記載によれば、有効投票数六五票(出席者六七名のうち帰宅した二名の票を除く)、理事に選ばれた者のうち最低得票者は被告ト・トンボの二七票、監事では被告中本の四三票である。そこで、定款第二六条に定められた法定最低得票数は理事については、六五票を理事の定数七で除した九・二票強、監事については、六五票を監事の定数二で除した三二・五票となり、当選者はいずれもこれを超えていることは算数上明らかであり、当選者がすべてこれに足りないとする原告等の主張は誤算という外はない。

(ハ)  法第五二条第三項には、単に議長は組合員として総会の決議に加わる権利を有しないと規定してあるのみで、選挙を行う際に議長が投票を行うことを禁じてはいない。法が、役員の選任を決議によらしめず、特に選挙によらせている以上、両者は別の取扱をすべきであるから、議長が投票に加わつたことを理由とする原告の主張は明らかに失当である。

(三)  よつて、右選挙は有効であるから、その無効を前提として、昭和二七年二月一七日及び同二九年二月二七日の総会における各選挙の無効を主張し、被告九名の理事又は監事としての地位を否定しようとする原告等の請求は理由がない。

四、結論

以上のとおりであるから、原告等の本訴請求中、組合員原告中沢を除名する決議の存在しないことの確認、並びに組合員原告高橋及び同富田を除名する決議の取消を求める部分は理由あるものとして認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九二条本文の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部行男 太田夏生 宮本聖司)

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